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花ちりし

花ちりし あとの枯葉や 墓椿

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春はまだ来ない。

風はまだ冷たく、土は未だ霜を作っている。

ため息をつけば、それは白く宙を舞った。

もう三月だというのに。

辺りを見回しても、春を告げるもの…いや、それ以前に冬を伝えるものすらなかった。

樹の一本すら存在しない平地。そこに一人、俺は立っていた。

なんでこんな所にいるんだ?

どうしてこんな広い場所に、俺は一人でいるのだろうか?

春はまだ来ない。

ああ、俺は春を探しに来たのか。

白い花だ。うっすらと桃を宿した。純粋で。それでいて、儚くて。

か弱くて。眩しくて。揺れて。散って……。

それから?

記憶を巡らせたとき、それは音をたてた。

ぼとり。

赤い赤いそれは、霜に濡れた足元に落ちていた。

「椿だ」

ずいぶんと古びていたのか、花弁はところどころ変色し、葯は卑しく黄色に色づいている。

それでもなお花としての形を保つそれに恐怖と同時に、美しさを感じた。

まじまじと見つめていると、またどこかで、音が聞こえた。

ぼとり。

椿の花は春の訪れと共に朽ちていく。

ああそうか、春はもうすぐ来るのではないか?

落ちる椿を数える間に、いつの日か。

はらはらと散る、その花を最後に見たのはいつだったか。

春の生ぬるい靄に包まれたような、おぼろげな記憶を瞼の奥にうつし、

そして俺は、眼前に広がる朽ちた椿を数え始めた。

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