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無音

  • 執筆者の写真: み みな
    み みな
  • 2015年8月18日
  • 読了時間: 2分

黄昏の色が青に溶けている。 夜はもう すぐそこまで来ていた。

........................................................................................... 「止まってる」

深い静寂を破り、彼女は部屋の端を見やって、はっとした声で呟いた。 彼女の手元には、閉じられた本が置かれている。 きっと、彼女は先ほどそれを読み終え、時刻を確認しようとしたのだろう。時計の針は北北西を指し、もう少しすれば鐘の音が鳴るであろうという直前のところで止まっていた。

「本当だ」

時計を直そうと椅子から立ち上がったが、彼女はいい、とそれを制止した。

「…あとで、でいいよ」

時計から視線は離されていない。

時計へ向かうことなく空いた足は、無意識のうちに彼女の隣に来た。

彼女は先ほど座っていた椅子から離れた書斎机にいて、僕が近づいてきたことに気づくと、すぐにこちらを向いて、微笑んだ。

「本を読んでいたの?」

「うん。夢中だったから、針の音が止まったのも気づかなかった」

「そっか」

しばらく間があった。

「…あなたは何をしてた?」

何か考えていたような気がしたが、とくに内容は思い出せなかった。

「…ぼうっと…」

「寝てたんじゃなくて?」

ほんの少し悪戯めいた、無邪気な子供のように、彼女は笑った。

「そうなのかも」

それが嬉しくて、僕もまた笑った。

そしてまた、静寂が訪れる。

二人にとってはそれはいつもの事であり、僕はこの時間が好きだ。

静寂の無のなかから、彼女と二人でいるということだけが存在する、特別な時間だ。

今日は特別に、時を刻む針の音も聞こえない。

今、僕たちの時間は止まっている。

彼女は僕から目を離すと、それきりずっと窓の外を見ていた。

夕焼けの陽の光が彼女を差している。

反対色の彼女の瞳は夕陽の光と溶けて混ざり、今にも消えそうだった。

そのはかなげな横顔を、僕はずっと見つめていた。

 
 
 

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