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星と塵

僕は闇の中を彷徨っていた。

しかし、僕自身が闇であって、それでいて、僕はここに迷い込んでいる。

同時に僕は眠っている。そして、僕の身体はここにはいない。

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ずっと眠り続けていた。

しかし、それより前に僕は目を覚ましていたことがあっただろうか。

ここは闇の中だ。僕はずっと長い間ここでひとり過ごしてきた。

僕はここで、ずっと何かを護っていた。それは僕が与えられた使命であり、僕の存在する理由であった。しかし、そんな記憶などどこにもない。

情報は理解していても、僕自身にその記憶は存在しないのだ。

僕が今までどんな気持ちで、どんなことを考えていたか。

そして、どうして今になって、そんなことを考えているのか。

まるで僕がいま生を受け、僕が存在し始めたような、そんな感覚だ。

それを理解すると、今度は身体がずしりと重たくなった。

長い間存在しなかったそれが、急に一点に集まって、空の上から僕にのしかかってくるようで、

僕はその原因を探ろうと空を見上げた。しかし、そこは空ではなかった。

どこまで遠くて、どこまで近いかもわからない闇がそこにはあった。

しかし、先ほどとは違う、黒の切れ間から白く輝くものが降りてきて、

チカチカと輝くそれは、星のような、雪のようなものと形容できるが、

僕はそれがただの塵だとわかると、それを目で追うのをやめた。

しかし、それが何も初めて見たものかのようにも思えない。

僕は今までずっとこれの存在に気づいていなかったのだろうか。

それはどうして……。

考えると、また身体が重くなった。

僕はいままでずっと、ここに目的があって、それを望んでここにいた。

しかしどうにも、僕が僕でないような、僕の目的はここに存在しないような。

僕がここにいるには不相応であるような、変な感覚をとらえた。

もちろん僕にはここにいる必要があるのだが、それ以上に…

ぼんやりしていた焦点が、今、やっと定まったような。

誰かに呼ばれて、はっと振り返ったときのような。

僕がそれに惹かれるような、そんな感覚があったのだ。

僕には焦点も、誰かというものもありはしないはずなのに。

僕を動かす対象は誰だ?

僕はどうして今更、こんなくだらないことを考えるんだ?

僕はどこに在るべきなんだ?

ひたすらに重くなる身体に悶え苦しみ、答えを探して手をのばすと、

闇と塵のわずかな隙間から、僕の答えを見つけた。

僕はそれが答えなのだとすぐにわかった。

それは僕が知らないものだったから、ただそれだけの理由だが、

それだけの理由があった。僕は全てを知っていたのだから。

"それ"を手にしようと"それ"に駆け寄り、やっと掴んだとき、

ごお、と強い風が耳を刺激し、過ぎ去った。

空を見上げると、緑色に茂った木々がさっきの風で音を鳴らし、揺れている。

その奥には、夜の青い空が星を光らせている。

そして僕の目の前には、赤く大きな瞳を開かせ、僕をみる、”僕の答え"がいた。

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